精度を決めているのはツールより録音環境
文字起こしツールの比較で最初に語られるのは認識精度ですが、実際に精度を左右している要因の順序は次のとおりです。1に録音の音質、2に話し方、3にツール。ここを理解しないままツールを乗り換えても結果は変わりません。
具体的には、マイクから遠い声、複数人の同時発話、エアコンやプロジェクタの騒音、そして電話会議のスピーカー越しの音声が精度を大きく下げます。逆に、各参加者が個別のマイクで話すオンライン会議では、どのツールでも実用的な精度が出ます。
つまり改善の順番は、ツール選びより先に会議の録り方を変えることです。オンライン会議ならツールを会議に参加させて各話者の音声を個別に取得する、対面ならマイクを話者の近くに置く。これだけで体感は変わります。
3系統に分かれる
| 系統 | やり方 | 代表 | 料金 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|---|
| 会議参加ボット型 | ボットを会議に招待して録る | Fireflies.ai/tl;dv/Fathom | 無料/$15/月〜$25/月 | 定例のオンライン会議 |
| アップロード型 | 録音ファイルを渡す | Notta/Otter.ai/Rimo Voice | 無料/$16.99/月〜$22/月 | 対面の会議、取材、講演 |
| セルフホスト型 | 自分の環境で処理する | Whisper | 無料(OSS)/API従量 | 外部に音声を出せない場合 |
選び分けの基準は単純です。会議がオンラインで定例なら1つ目。招待するだけで録画・文字起こし・要約まで自動で残るため、運用の手間がほぼありません。対面や単発なら2つ目。音声を外部に出せない要件があるなら3つ目で、Whisperはオープンソースなので自分の環境で完結させられます。
3つ目は技術的な準備が必要ですが、機密性の高い会議や、顧客の音声を扱う受託業務では選択肢がこれしかない場合があります。API経由で使う形もあり、その場合は従量課金になります。
主要ツールの料金
| ツール | 無料枠 | 有料 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| Notta | あり | Pro 月1,980円/Business 月4,180円 | 日本語に強く、国内での採用が多い |
| Otter.ai | あり | Pro $16.99/月/Business $30/月 | 英語のリアルタイム字幕が強い |
| Fireflies.ai | あり | Pro $18/月/Business $29/月 | 会議に参加して自動で記録 |
| Fathom | 個人は無料 | Team $15/月 | 個人利用の無料枠が広い |
| tl;dv | あり | Pro $25/月/Business $59/月 | 録画へのタイムスタンプ付きメモ |
| Rimo Voice | トライアル | Lite $22/月/Standard $59/月 | 日本語特化、国産 |
| AI GIJIROKU | トライアル | Standard $22/月/Pro $66/月 | 日本製、法人向け |
| Whisper | OSSで無料 | API は従量課金 | セルフホスト可能 |
注意点として、国産の3ツール(Rimo Voice、AI GIJIROKU、および一部プラン)は無料枠が期間限定のトライアルで、恒久的な無料プランではありません。試用期間内に判断する必要があります。海外系は恒久的な無料枠を持つものが多く、じっくり試せます。
個人で使うならFathomの無料枠とNottaの無料枠から始めるのが費用面では合理的です。Notta vs Otter.aiで日本語と英語の得意分野の差を比較しています。
日本語で精度を上げる2つの設定
日本語の文字起こしで誤りが集中するのは固有名詞と専門用語です。ここは設定で改善できます。
辞書・単語登録。多くのツールに、あらかじめ単語を登録する機能があります。自社の製品名、顧客名、社内で使う略語、参加者の氏名を登録しておくと、その部分の誤変換が大幅に減ります。導入直後にこれをやるかどうかで、体感の精度が変わります。
話者の分離。誰が話したかを区別する機能です。会議に参加するボット型では各参加者の音声を個別に取得できるため精度が高く、1本のマイクで録った音声では分離が難しくなります。議事録として使うなら、この点でもオンライン会議はボット型が有利です。
それでも、同音異義語と数字は誤りが残ります。金額、日付、数量が出る箇所は目視で確認してください。
「文字起こし」から「議事録」にするには
文字起こしをそのまま議事録として配ると読まれません。1時間の会議の全文は膨大で、必要な情報が埋もれます。議事録に必要なのは次の3つだけです。
決定したこと。誰が何をいつまでにやるか。持ち越しになった論点。
多くのツールに要約機能が付いていますが、出力される要約は「話された内容のまとめ」であって、上の3点の抽出になっていないことが多いです。そこで実務的なのは、文字起こし結果を汎用チャット(ClaudeやChatGPT)に渡して「決定事項、担当者と期限、持ち越し論点の3つだけを箇条書きで抽出して」と指示する方法です。要約の形式を自分で決められるため、社内のフォーマットに合わせられます。
ただし抽出結果は必ず確認してください。言い切っていない発言を決定事項として書き出すことがあり、それが独り歩きすると実害になります。組織での運用ルールの作り方はAIツールの社内導入ガイドにまとめています。
録音の同意と機密の扱い
技術的な話より先に運用上の確認が必要な領域です。
録音することを伝える。社外の相手が参加する会議では、事前の告知と同意が原則です。会議に参加するボット型は参加者一覧にボットが表示されるため気づかれやすい一方、黙って入れると不信感につながります。定例化するなら、招待時点で明記しておくのが確実です。
音声とテキストがどこに保存されるか。文字起こしサービスには音声そのものが渡ります。顧客との商談、採用面接、医療や法務の相談などが対象になる場合、その音声を外部サービスに保存してよいかは組織の規定と契約で決まります。判断がつかない場合はWhisperのようなセルフホスト可能な選択肢を検討してください。
保存期間と削除。録画・音声・テキストがいつまで残るか、削除できるかを確認します。無料プランでは保存期間に制限があることが多く、逆に必要な記録が消える問題も起きます。判断基準はAIツールのデータポリシー比較にまとめています。
会議支援ツールを順位で比較したい場合は会議支援AIツールランキング、音声関連を横断で見たい場合はAI音声ツールランキング、条件から絞るなら無料診断を使ってください。
よくある質問
日本語の精度が一番高いのはどれですか?
録音環境が同じであれば、国内向けに調整されたNottaやRimo Voiceが安定しやすい傾向です。ただし精度への影響はツールより録音環境のほうが大きいため、まずマイクと録り方を見直すほうが効果が出ます。
無料プランだけで足りますか?
月に数回の会議であれば足ります。無料枠は多くの場合「月あたりの文字起こし時間」で制限されるため、自分の会議時間の合計と照らして判断してください。国産ツールの一部は無料枠が期間限定のトライアルなので、恒久的な無料利用を前提にできません。
対面の会議でも使えますか?
使えますが精度は落ちます。1本のマイクで複数人の声を拾うため、話者の分離が難しく、遠い席の声も取りづらくなります。可能であれば話者の近くにマイクを置くか、参加者それぞれの端末で録るほうが結果が良くなります。
会議を録音するのに参加者の同意は必要ですか?
社外の相手が含まれる場合は事前の告知と同意を取るのが原則です。社内の定例会議でも、初回に明示して運用ルールとして共有しておくと毎回の判断が不要になります。
音声を外部サービスに送りたくない場合はどうすればよいですか?
Whisperはオープンソースで公開されており、自分の環境で処理を完結させられます。技術的な準備は必要ですが、顧客との商談や面接のように音声を外に出せない用途では現実的な選択肢です。